「情景漢語」という中国語教材があります。
本屋ではほとんど売られていませんが、大学や中国語教室の授業なんかでたまにテキストとして使われています。
というか、わたしも大学2,3年のときこのテキストを使っていました。
すごいです。
まず、値段が2600円と高いです。まあ、語学のテキストとしてはめちゃめちゃ高いってほどでもないですが。学生さんには痛かったっす。
で、A4版で、300ページくらいあって、紙質がいいのでめちゃくちゃ重いです。
中文の学生は、辞書やその他テキスト、飲料などと一緒に持ち歩くと、カバンが破けそうでした。肩こり増強マシーンです。
今でこそ電子辞書が軽量化に役立っていますが、数年前の外国文学科の学生さんたちは辞書が重くてみんな肩こりでした。(マユツバ)
値段より重さより、なにより吹っ飛ぶのは、テキストに漢字がないことです。
中国語なのにです。
文章は全部ピンインなのです。
日本人お得意の、「漢字見ただけでなんとなく意味がわかるわ!」ができないので、しっかり予習をして臨まないと、大変な目に遭いました。
ヨーロッパの人達はこうやって中国語を学ぶのでしょうか……。
でも、かえって漢字のありがたさが身にしみてしまいました。きっとこれって逆効果。
ぱらぱらとめくってみせると、友人家族(中国語未習者に限る)に、
「わあ、これ、何語?」
とか訊ねられるのもポイント高し。(そう?)
そして、いちばんすてきなのが。
銀行で、とか、ダンスパーティーで、とか、さまざまなシチュエイションが設定されている各課のさいごに、中国語の散文が載せられているのですが、今度はこれは手書きの中国語です。
手書きは半端ではありません。
超達筆です。
初めは楷書で書かれているのですが、セクションが進むごとに字が流れていきます。
どんどん達筆になります。
最後は読めません。暗号です。
“在”の字が在じゃありません。
中国人の友人に見せると、「こんなのフツウ」とのことだったので、わしら中文の学生さんが勉強不足だったのでしょうが、当時は読める読めんと騒いでいました。
…当時のわたしにとっては画期的なテキストでした。
そのころの中国語会話の授業を担当しておられた中国人老師(J老師)が、そのテキストの達筆中国語散文を書かれたという縁故で、情景漢語を授業で使っていたらしいです。
最後の授業で老師がカミングアウトされました。
老師、そんな理由で……。
そんな理由で、わたしは情景漢語にめぐり合うことができたのでした。
次の年、J老師にかわって、X老師が中国人講師として来られましたが、
「ピンインばっかりで読みにくいんですよね」
と、「情景漢語」のテキストを廃してしまわれ、違うテキストを使うことになりました。
あっ、老師、そんな理由で……。
…たしかに読みにくかったっす。
大学や教室などで使うテキストは、市販されてないぶん、わかりやすくない、妥協のない教材が多いです。(中にはやけにノリノリなものもありますが……)
そんな教材たちが懐かしいなーと思うきょうこの頃。
もいっかい、大学で勉強したいなあ。国内でも海外でも。
…禁句ですけれどね。